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新潟地方裁判所高田支部 昭和26年(ワ)22号 判決

被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し別紙<省略>第一目録記載の建物の引渡しをせよ。

被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し金百十万四百八十五円及びこれに対する昭和二十八年七月六日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。

原告(反訴被告)のその余の請求はこれを棄却する。

被告(反訴原告)の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は本訴及び反訴共全部被告(反訴原告)の負担とする。

原告(反訴被告)に於て金三十五万円の担保を供するときは第一、第二、第五項に限り仮に執行することができる。

二、事  実

原告(反訴被告以下原告と略称する)訴訟代理人は本訴につき主文第一項、第二項同旨及び被告(反訴原告以下被告と略称する)は原告に対し別紙第二目録記載の未取付部分品の引渡しをせよ。訴訟費用は被告の負担とする。との判決並に担保を条件とする仮執行の宣言を求め、反訴につき「主文第四項同旨及び反訴の訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、本訴の請求原因並に反訴の答弁として、原告は地方自治法による普通地方公共団体にして、被告は新潟県西頸城郡糸魚川町に事務所を有し建設業法に基いて正規の登録を受けた建設業者であるが、原告は被告と昭和二十五年八月十八日原告村役場に於て、別紙第一目録記載の能生谷新制中学校南北両校舎(南校舎は原告村大字溝尾地内、北校舎は原告村大字平地内)を請負代金八百五十万円とし、被告は能生谷村工事執行規則(以下工事執行規則と略称する)を遵守し(但し請負保証金は免除すること)、昭和二十六年一月三十一日を期し設計書、仕様書及び図面通り相違なく竣功すること並に万一違背の節は工事執行規則により処分されても異議ない旨の随意契約による請負契約をなし、同時に右請負契約の附帯条項として「設計仕様書中電燈、電鈴、給水装置の取付工事を除外し、窓レールは真鍮を鉄に、北校舎の防火扉二箇所を一箇所に、床張りは廊下だけを高級フローリングとし他は杉板張りに」夫々変更するとの合意をなしたが、その後被告の工事施工は緩慢で右竣功期限には請負工事の完成が困難なので、昭和二十六年一月六日原告被告間に於て、工事仕様及び請負代金はその儘とし、(1) 竣功期限を同年三月三十一日まで延期すること、但し右竣功期限までには原告村にて隣町能生町に委託しある生徒三百名全部を引取らねばならぬので右期限は万難を排して厳守すること、(2) 竣功期限に至つて工事未完成であつても使用に支障なければ被告は原告に未完成校舎を引渡し使用せしめること、(3) 残工事に入用な製材約四百石を充足の為原告において被告が原告村地元から立木を買入れられるように斡旋すること、(4) 当初契約の乾燥材使用の定を緩和することを合意し、原告は立木の斡旋を契約通りなした。然るに依然被告は工事の施工緩慢で右竣功期限たる昭和二十六年三月三十一日を経過するも依然工事は完成せず、その儘同年五月三日に至るや被告は原告に対し工事請負代金の大巾値上げを口頭を以て要求し、更に翌四日には文書を以て「北校舎実費坪当り約金一万三千七百五十二円也に基き総請負代金を金千三百万円也に増額支払われ度い」旨の要求をして来たので原告は直に「被告が請負契約を無視して請負代金の増額を要求するのは不当であるからこれを拒絶する」旨及び「北校舎は兎に角生徒を収容し得る程度に工事が進んでおるので生徒を収容せざるを得ない」旨通告し、同年五月十一日から生徒を収容し其の翌日から授業を開始したが、被告はこれを妨害するので同年同月二十日西頸城地方事務所長の仲裁を求めたが、依然被告は右増額の要求を固執して譲らないので、原告は止む得ず被告の契約不履行により請負契約の目的を達し難いから同年同月二十一日工事執行規則第十九条第一号「工事施行緩慢であつて期限内に竣功の見込がないと認めたときは、請負契約を解除して請負保証金及び工事の既成分を村の所得とする」旨の規定により、右請負契約を解除する旨内容証明郵便を以て通告し即日該郵便は被告に送達せられた、因て同日原告被告間の請負契約は解除せられ原告は別紙第一目録記載の建物及び同建物内に残置せられた別紙第二目録記載の未取付部分品の所有権を取得した。

而して原告は右請負契約解除後同年五月二十三日裁判所に仮処分決定を求め、未完成の本件南北両校舎及びその内に残置せられた右未取付部分品の引渡を受けた、当時その工事出来高は北校舎は九五・二五パーセント、南校舎は五二・七五パーセントで両校舎総合出来高は七一・三四パーセントであつて、原告は昭和二十六年六月より同年十月までにその残工事を自ら施工し完成したが、これに要した経費は右未取付部分品を使用して全額金二百六十万四百八十五円を支出した。

その間原告は右請負契約において、分割支払の特約はしなかつたけれども、第一回昭和二十五年九月四日金百五十万円、第二回同年十月十二日金百万円、第三回同年十一月十四日金五十万円、第四回同年十一月二十七日金百万円、第五回同年十二月二十六日金百万円、第六回昭和二十六年二月二十六日金六十万円、第七回同年三月二十七日金百万円、第八回同年四月二十七日金四十万円合計金七百万円を支払つた。

元来請負契約は仕事を完成し引渡に至る迄其の物の所有権は原則として請負人に存し、之が完成引渡しを受けるに際し注文者は報酬を支払えば足るのであるが、一般の工事請負は先づ工事着手の際前渡し金を渡し、それから後も工事の出来高に応じて請負代金を中間払して行き、完成引渡の時は支払うべき報酬が残つていないと言うのが実情である。このような工事請負契約においては、典型的請負契約と異り中間金の支払の度毎にその出来高までの未完成品の所有権は注文主に移転すると解すべきであり、且当事者の意思もここにあるものと考えられる唯だ中間金の支払は厳密に出来高と一致しないので所有権の範囲帰属の時期に就て紛争を生ずる虞があるから、斯る場合に請負契約解除によつてその未完成品の所有権が注文主に帰属する旨を予め契約しておけば、この紛争を避け当事者の権利義務を明らかにすることができる、工事執行規則第十九条はこの趣旨に出ずる規定である。

又請負契約は民法第六百四十一条によれば請負人が仕事を完成しない間は、注文者は何時でも損害を賠償して契約を解除することができるのであるから請負人に生ずべき最高額は即ち請負代金である。契約にして有効である限り請負人は請負代金を超えて報酬を取得することはあり得ない。而して注文者は請負代金の金額さえ支払うならば何時でも契約を解除し得るし、之を支払う以上は物の所有権は当然注文者に帰属すること勿論である。唯だ未完工の場合利益相殺の問題が残るだけである。本件の場合原告が被告に支払つた請負代金の総額は前述の通り総額金七百万円で残金僅かに金百五十万円に過ぎない、これに対して被告が残した不足工事は南北両校舎を合せて金二百六十万四百八十五円であるから、利益相殺の結果は被告において金百十万四百八十五円の支払勘定である。

即ち民法第六百四十一条による解除の場合においても被告は建物引渡義務があるのであつて、工事執行規則第十九条は右民法の規定を所有権の帰属という面からもこれを明らかにした規定である。

従て原告は前述の通り昭和二十六年五月二十一日本件請負契約を解除して、別紙第一目録記載の建物及び別紙第二目録記載の未取付部分品の所有権を取得したものであるから、被告はこれを原告に引渡す義務があり、且原告は前述の通り被告の本件請負契約不履行に因り、本件南北両校舎の残工事を完成しそれに要した経費全額金二百六十万四百八十五円より原告の被告に対する未払代金百五十万円を差し引き、原告は本件請負契約の請負代金より金百十万四百八十五円の超過支出をなさざるを得なかつた。これは被告の請負契約不履行により原告の蒙りたる損害であるから被告は原告に対しこれを賠償する義務がある。

よつて原告は被告に対し所有権に基き別紙第一目録記載の建物及び別紙第二目録記載の未取付部分の引渡を求めたるも、被告は之に応じないので之が引渡を求めるとともに、被告の請負契約不履行により原告の蒙りたる損害の賠償として、合計金百十万四百八十五円及びこれに対する原告の第二準備書面送達の日の翌日である昭和二十八年七月六日より年五分の割合による損害金の支払を求める為本訴請求に及びたりと陳述し、

被告の主張及び抗弁事実中南北両校舎の整地及び杭打工事並に北校舎の道路工事が原告の施工すべきことになつていたこと、及び本件請負契約は即日見積期間をおかずに締結したものであることは認めるがその余は否認し、昭和二十五年八月十八日原告村役場において本件請負契約に際し契約書三通を作成し、原告被告間に原告二通被告一通取交された請負契約書に工事執行規則を遵守する旨明記されてあり、而もこの契約書が作成された際には被告は勿論渡辺、猪又両使用人も同席して之を閲覧承知しており、更に被告は之を持ち帰り契約書を完成の上同年同月二十一日原告に届けたもので、被告は工事執行規則の遵守が契約の内容をなすことを知つていた筈であり、工事執行規則は県内他町村同様に新潟県にて大正九年四月十日制定し、現在も施行中の県令第二十六号新潟県工事執行規程に範を採つて県の勧奨で地方自治法に基き正規の手続を経て、昭和二十三年六月一日制定された規則で主要部分は全く同一のもので、原告村に限らず県、地方事務所、土木出張所は勿論他市町村でも各種請負契約に多く県の規程若しくはこれに做つた自町村の規則を遵守して請負う旨を約するのが常例で、原告村の本件請負契約書の如きも県の現行請負契約書の書式によつたものであるから、建設業者として永年県、地方事務所、町村等と請負契約を為して来た被告としてはその内容を熟知している筈であり、仮に知らないとしても地方自治法に基き制定公布された工事規則の効力は及ぶ。

建設業法第二十条所定の見積期間をおかないで締結された請負契約の効力については、建設業法に何等の規定なく、勿論無効を予定した処理規定もないし、右規定の違反に対する処罰規定もないから同条は訓示規定であつて、同条に違反しても請負契約は無効ではない。又原告は昭和二十五年八月十六日原告村役場の土木課長笠原英佐武が被告宅において被告及びその主任技術者渡辺忠作に面接して午前、午後の長時間に亘つて設計図、設計書、仕様書を説明して検討して貰い、更に同年八月十八日には被告及び渡辺技術員、猪又資材係員は原告村役場において、早朝七時半より関係書類一式を検討見積の上同日午後六時頃請負契約書を作成したもので十分見積できた筈であり、本件建築は特殊新規な建築でなく日本建築規格JES第一三〇三号木造中学校建物規格に準拠して設計せられたもので、被告は建築士で多数の中学校校舎建設の経験を有し、契約当時西海村中学校の請負建築中で建築価格にも通暁し見積期間はなくても本件中学校校舎の大体の見積は容易にできた筈で、本件随意請負契約において被告は自から見積期間の余裕を求めず原告の申込を承諾したのは建設業法第二十条の見積期間の利益を抛棄したものである。

建設業法第十九条によれば同条各号に規定する各事項はこれを書面によつて明らかにすることを要するが、本件請負契約においては所定事項の大部分は請負契約書及び工事執行規則に定められているのみならず、その所定事項を書面に明らかにすることを要する旨を定めた建設業法第十九条も訓示規定と解すべきであるから、同条の所定事項の全部によつて明らかにしなくても請負契約は無効というべきではない。

工事執行規則の遵守を内容とする本件請負契約は建設業法第十八条に違反する片務的、不対等、不公正な請負契約ではない。即ち建設工事請負契約においては注文者たる村の義務は請負代金の支払であるが請負人の義務は複雑な内容の仕事を完成することにあつて、而も営利を目的とする者であるから仕事の完成途上種種紛争を生じやすく且つ注文者たる村当局も中学校校舎を建設するが如きことは左程屡あるものでもなく、従て契約締結に際し当然決定して置くべきことも抜けるような虞もあるので、予め研究した工事執行規則を制定しておいてこれに準拠して各種の請負契約をしているのである。而して工事執行規則は原告村に特有なものでなく、前述の通り監督庁たる県の新潟県工事執行規程に範をとつたもので、他の町村でも多く之に做つているのであつて、工事執行規則遵守を内容とする本件請負契約を無効とすれば県、地方事務所、町村等の請負契約は総て無効となつて実情に添わない。

原告の施工すべき整地、杭打及び道路工事については確定の期限はなかつたが、昭和二十五年九月十六日には南北両校舎の建設部分の整地工事は完工し、杭打工事は被告の提供することになつていた杭木、打杭器具の搬入が遅れ且つ杭木の補給や不合格品の代品が間にあわなかつたけれども、北校舎が同年十月十八日頃南校舎が同年十月五日頃完工した。北校舎の道路工事は比較的延引したが被告の建築材料搬入に支障なからしめる為同年十月二十九日トロ線を敷設し、トロツコを被告に無償提供して被告の工事施工に何等の不利益を蒙らしめず、原告の施工すべき整地、杭打及び道路工事につき原告の責に帰すべき債務不履行はない。

本件請負契約は請負代金を金八百五十万円と定めたもので、請負代金は契約の要素であるから、若し請負代金八百五十万円の部分が無効でありとすれば本件請負契約は全体として無効となるから、被告主張のように請負代金の部分は無効であつて工事完成に要した経費に適正利潤を加えた金額を原告より被告に支払うと言う無名契約に転換することはあり得ない。

従て被告の反訴請求も理由がないから之に応じ得ないと陳述した。<立証省略>

被告訴訟代理人は本訴につき「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め反訴につき「原告は被告に対し金四百五十一万六千五百五十一円及びこれに対する昭和二十七年一月三十一日より完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。反訴訴訟費用は原告の負担とする。」との判決並に仮執行の宣言を求め、本訴に対する答弁並に反訴請求原因として、原告は地方自治法による普通地方公共団体なること、被告は新潟県西頸城郡糸魚川町に事務所を有し建設業法に基いて正規の登録を受けた建設業者であること、原告と被告間に別紙目録記載の新制中学校南北両校舎建設工事請負代金八百五十万円、竣功期限は昭和二十六年一月三十一日として同二十五年八月十八日請負契約をなしたこと、右請負工事は未完成であつたこと、被告は原告より請負代金として合計金七百万円の前払を受けたこと、被告が原告に対し請負代金につき金四百五十万円の増額を請求したこと、原告が同二十六年五月二十三日仮処分決定により未完成の両校舎を被告より引渡を受けその未完成部分の工事を原告が完成したことは争わないがその余は否認する。

即ち(1) 昭和二十五年八月十八日原告村で本件請負契約を締結したときは口頭を以てなされたもので、原告主張の如く工事執行規則を遵守する旨の合意をなしたことはないし、被告は工事執行規則を知らないばかりでなく原告より示されたこともない。請負契約書の作成されたのは同年同月二十日でこれは被告の使用人猪又係員が原告から印鑑持参の上原告村役場に出頭するようにと促され請負契約書に押印したもので、被告は請負契約書を受領していないし、その内容も知らない、従て工事執行規則は本件請負契約の内容の一部をなすものではないから、原告主張の如き工事執行規則による本件請負契約解除は無効である。(2) 昭和二十六年一月六日に原告と被告との間に竣功期限を延期する合意をしたが、確定的な期限を定めなかつたもので工事竣功期限は未だ到来していない。(3) 請負契約においては仕事完成の上引渡によつて始めて所有権が移転するのであつて、原告主張のように前渡金支払の限度において工事出来高に応じて順次所有権が移転することはないから、本件未完成の南北両校舎の所有権は被告が有すると述べ、

抗弁として(1) 本件請負契約の請負代金は金八百五十万円であるから、建設業法第二十条同法施行令第四条により契約締結に当り、原告は被告に対し見積期間は十日以上止む得ない事情があつたとしても、五日以上の見積期間を設けねばならぬのに、この見積期間を設けず即日見積り契約をなさしめたのは建設業法第二十条に違反して無効の請負契約である。(2) 本件請負契約においては建設業法第十九条に定める各事項につき書面を以て明らかにしていないから同法同条に違反して無効の請負契約である。(3) 被告は本件請負契約においては工事執行規則の遵守が契約の内容をなすことを否認するものであるが、仮に工事執行規則遵守が本件請負契約に含まれるとしても、工事執行規則は片務的条項のみを規定して不対等、不公正であつて建設業法第十八条の趣旨に違反するから本件請負契約は無効である。(4) 工事執行規則は建設業法施行前に制定せられたもので同法施行後は工事執行規則は無効である。(5) 仮に原告主張の如き請負契約が有効に成立したとしても本件請負工事は南北両校舎の整地工事、杭打工事及び北校舎の道路工事は原告において施工することになつていたが、原告と被告の契約により原告が昭和二十五年八月末日迄に完成すべき整地工事、同年九月十五日までに完成すべき道路工事が大遅延した為被告が予定通り九月乃至十一月の比較的天候良好な時期に工事を順調に施工することが出来ず、翌一月、二月の冬期に入り降雪と寒風の悪条件の時期に工事を施工することになり、遂に工事遅延のやむない状況に至たのであつて、被告の工事遅延は原告の責に帰すべきもので被告に履行遅滞の責はないと述べ。

むしろ被告は前述の通り原告がなすべき整地工事、道路工事が大遅延した結果本件請負工事を予定通り施工することができず、その為資材の暴騰、工賃の増加等予想し得ない経費の増大によりやむ得ず原告に対し金八百五十万円の請負代金の外金四百五十万円の増額を要求したのであつて、被告が同二十六年五月二十三日両校舎未完成の儘仮処分決定により原告に引渡す迄金千百五十一万六千五百五十一円を本件請負工事に支出し、原告より請負中間渡金として受取つた金七百万円を差し引き金四百五十一万六千五百五十一円の不足を来した、これは被告と原告間の契約で原告が昭和二十五年八月三十一日迄になすべき整地工事及び同年九月十五日迄になすべき道路工事の遅延に基く原告の責に帰すべき事由による履行遅滞により被告の蒙りたる損害である。仮に原告において原告の施工すべき整地工事、道路工事の遅延がなかつたとしても本件請負契約は前述の通り建設業法第二十条に規定する法定の見積期間をおかず、又同法第十九条所定の各事項を書面を以て明らかにしていないから同法所定の請負契約として無効であるが、本件請負契約は全部無効とまで解すべきでなく、報酬額の点は効力を生じないけれども公序良俗に反しないところの本件南北両校舎を被告が原告に建築工事を完成する点については有効であるから、被告がこれを完成しその為に支出した経費とこれに適正なる利潤を加えた報酬を原告より被告に対して支払うと言う無名契約に本件請負契約は転換しその竣功期限は原告の施工すべき整地工事、道路工事が遅延したこと及び昭和二十六年一月六日に原告と被告との間に期限の定めなく、竣功期限を延期する合意が成立していることから竣功期限の定めのない無名契約に変更された。而して被告は前述の通り昭和二十六年五月二十三日仮処分決定により未完成の南北両校舎を原告に引渡す迄本件請負工事に金千百五十一万六千五百五十一円を支出しているから、原告より被告に対して支払れた請負中間金七百万円を差し引いて、金四百五十一万六千五百五十一円を右無名契約に基いて原告は被告に対して支払う義務がある。

以上の理由により被告は原告の本訴請求に応ずることを得ず、却て反訴請求として被告が本件工事に支出した総工事費金千百五十一万六千五百五十一円から、被告が原告より受領した請負中間金七百万円を差引いた金四百五十一万六千五十一円は原告の責に帰すべき事由によりて、原告の施行すべき整地工事及び道路工事完成の履行遅滞により被告の蒙りたる損害であるから、之が賠償として被告は原告に対し金四百五十一万六千五百五十一円及び之に対する本反訴状送達の日の翌日である昭和二十七年一月三十一日より完済に至るまで年五分の割合による損害金の支払を求める。仮に然らずとするも本件請負契約は報酬額、竣功期限の定めない無名契約に転換し、右金四百五十一万六千五百五十一円は原告において被告に対して支払う義務があるから、被告は原告に対し金四百五十一万六千五百五十一円及び之に対する本反訴状送達の日の翌日である昭和二十七年一月三十一日より完済に至るまで年五分の割合による損害金の支払を求めると陳述した。<立証省略>

三、理  由

先づ原告の本訴請求について按ずるに、原告は地方自治法による普通地方公共団体なること、被告は新潟県西頸城郡糸魚川町に事務所を有する建設業法に基いて正規の登録を受けた建設業者であること、原告と被告との間に昭和二十五年八月十八日別紙第一目録記載の新制中学校南北両校舎建設を工事請負代金八百五十万円、竣功期限は昭和二十六年一月三十一日なる請負契約を即日見積期間をおかずに締結したこと、右請負工事は未完成であつたこと、被告は原告より請負代金として金七百万円の支払を受けたこと、被告が原告に対し請負代金につき金四百五十万円の増額を請求したこと、原告が昭和二十六年五月二十三日仮処分決定により未完成の南北両校舎を被告より引渡を受けその未完成部分の工事を原告が完成したこと、南北両校舎の整地工事及び北校舎の道路工事は原告の施工することになつていたことについては何れも当事者間に争ない。

而して当事者間に成立に争のない甲第五号証、甲第八十九号証の一、二、甲第九十号証の一、二、甲第九十一号証の一乃至二十四、証人笠原英佐武の証言によつて真正に成立したと認められる甲第六号証及び証人笠原英佐武、同斎藤保太郎、同吉田勇、同笠原正吾、同日馬木敦、同滝川二一の各証言並に証人猪又清正の証言、被告本人の供述の各一部を綜合すると、原告と被告との間に昭和二十五年八月十八日原告役場に於て別紙第一目録記載の能生谷中学校南北両校舎を請負代金八百五十万円、請負保証金は免除すること、被告は能生谷村工事執行規則(以下工事執行規則という)を遵守し、昭和二十六年一月三十一日を期し設計書、仕様書、図面通り相違なく竣功すること並に万一違背の節は工事執行規則により処分されても異議ない旨の随意契約による請負契約をなし、同時に右請負契約に附帯条項として「設計仕様書中電燈、電鈴、給水装置の取付工事を除外し、窓レールは真鍮を鉄に、北校舎の防火扉の二箇所を一箇所に、床張りは廊下だけを高級フローリングとし、他は杉板張りに夫夫変更することの合意をなし、同日同役場に於て請負契約書一通、副本二通計三通を作成し、被告は三通とも署名捺印し副本一通は原告で所持し、正本一通は収入印紙貼用の為同日被告は他の副本一通とともに持帰り、同年同月二十日被告はその使用人猪又清正をして正本に印紙貼用の上原告に交付せしめたが、其の後被告の工事施工状態に照し、竣功期限同二十六年一月三十一日には工事完成の見込がないので、同年一月六日原告と被告間に於て工事仕様及び請負代金は其の儘とし、(1) 竣功期限を同年三月三十一日までに延期すること、但し右竣功期限までには原告村にて隣町能生町に委託してある生徒三百名を全部引取らねばならぬので右期限は万難を排して厳守すること。(2) 右竣功期限に至つて工事未完成であつても使用に妨げなければ被告は原告に未完成校舎を引渡し使用せしめること。(3) 残工事に入用の製材約四百石を充足の為に原告に於て被告が原告村地元から立木を買入れられるように斡旋すること。(4) 当初契約の乾燥材使用の定を緩和すること、の合意をなしたことが認められる。被告は本件請負契約に於ては工事執行規則の遵守は契約の内容の一部をなすものでなく、且つ昭和二十六年一月六日に原告と被告との間に竣功期限を延期する合意をしたが確定的な期限を定めなかつたと主張し、証人猪又清正の証言、被告本人の供述の各一部には被告の右主張に副う陳述をするけれども、前記甲第五号証の請負契約書の署名は被告本人の署名なることの自認と当事者間に争のない甲第八十四号証乃至甲第八十八号証の記載により、原告が能生町に委託してある生徒を昭和二十五年四月十六日頃既に引取らねばならぬような状態にあつたことが認められることに徴して遽に措信し難く他に右認定を覆すに足る証拠もない。従て被告の点についての主張は何れも理由がない。

次に、

(一)  被告は本件請負契約は、建設業法第二十条同法施行令第四条に定める見積期間をおかずに締結したものであるから、無効の請負契約であると抗争するので此の点につき按ずるに、本件請負契約は昭和二十五年八月十八日原告被告間に於て建設業法第二十条同法施行令第四条に定める見積期間をおかずに即日締結したものであることは当事者間に争のないところであるが、請負は仕事を完成する目的の契約で現代の土木工事、家屋の建築船舶の建造など殆んど請負契約によつてなされているが、之に就ての民法の規定は比較的簡単で注文書と請負人との法律関係に往往疑義紛争を生ずることが多く、従来より大資本を有する建設業者は同業者間の協定によつて契約の雛形を作り、これに基づいて詳細な契約書を作成する場合が多く、その約款の内容も概して合理的であり、その限りに於ては国家的統制は必要でないと考えられて来たが、建設業に於ては請負人の技術的無能や懈怠はひとり注文者だけでなく、一般公衆の安全にも関係が深く、また請負工事の中止、遅延、請負人の無資力等により注文者が不測の損害を蒙り裁判上の救済では十分な補償が得られない場合が多く、殊に近時群小建設業者の擡頭により業者間の競争激甚となり、従来においても巨額の政府資金を消費する官庁工事の請負は請負人に一方的な契約所謂請負契約の片務性を叫ばれたが一層業者に不利な条件の契約が多くなり、従てこの弊害が著しくなり何等かの国家的統制が必要とせられ、建設業を営む者の登録の実施、建設工事の請負契約の規正、技術者の設置等によつて建設工事の適正な施工を確保するとともに、建設業の健全な発達促進するために建設業法が制定せられたものである。而してこの立法趣旨に則り建設業法第二十条は請負人をして十分見積の余裕をおき適正なる報酬額の算定、竣功期限等を算出せしめ公正な契約を締結せしめ、請負人に不測の損害なからしめる為に建設工事の見積期間を定めたものであるが、本来見積期間を定めるが如きは公の秩序善良の風俗に関せざる事項であつて、契約自由の原則上当事者の意思特に請負人の意思によつて左右することができるものであつて、必ずしもこの法令に定める見積期間をおかなくても請負契約を無効とすべきものではない。果してそうだとすると被告の全立証を以てするも本件請負契約に於て被告はこの見積期間を要求したる形跡なく、又原告が故意に見積期間をおかなかつたとは認められないところであるから本件請負契約を無効と解すべきものではない。従てこの点についての被告の主張は理由がない。

(二)  被告は本件請負契約に於ては建設業法第十九条に定める各事項に就き書面を以て明らかにしていないから、同法同条に違反して無効の請負契約であると抗争するので此の点につき按ずるに、前示甲第五号証、甲第六号証によれば、本件請負契約書は建設業法第十九条に定める各事項の全部を書面を以て明らかにしていないことは認められるが、建設業法第十九条は前記建設業法の立法趣旨に則り注文者と請負人間の法律関係に疑義紛争をなからしめる為に具体的にその主要な事項を書面化して明確ならしめんとする目的で規定せられたものであるが、本来請負契約は請負人が仕事を完成することを約し、注文者がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約することによつて成立する雙務諾成契約である、即ちその要素は工事の請負においては工事内容、請負代金の額(報酬)、工事完成の時期であつて、他に何等の合意をしなくても請負契約は成立するのであつて、同法第十九条に列挙する十一項目全部を約し之を書面化する必要なく、同法同条は当事者間の法律関係の疑義紛争を防ぐ為請負契約当事者を指導せんとする注意的規定と解すべきである。果してそうだとすると前示認定の如く本件請負契約は工事内容、請負代金(報酬)、竣功期限等は当事者間に約されてあること明らかにして此の点についての被告の主張は理由がない。

(三)  被告は仮に工事執行規則の遵守が本件請負契約の内容をなすとするも、工事執行規則は片務的条項のみを規定して不対等不公正であつて建設業法第十八条の趣旨に違反するから、本件請負契約は無効であると抗争するので按ずるに、建設業法第十八条は前述建設業法の立法趣旨を更に具体的に明文化したものであつて、従来建設業者が建設工事の請負契約において一方的に不利な条件で契約することが多く、この為往往弊害を生ずることがあつたので之を是正する目的で建設業法第十八条で各各対等の立場における合意に基いて公正な契約を締結し、信義に従て誠実に履行しなければならないと規定したもので之契約締結上当然な精神的規定と解すべく、被告の全立証を以てするも原告が被告を圧迫して強制的に本件請負契約を締結したものと認め難く、前示甲第六号証能生谷村工事執行規則の各条文に就て順次検討するも著しく不対等、不公正で公序良俗に反すると認められる規定は一もなく、従て工事執行規則の遵守を契約内容とする本件請負契約を無効とすべきものではなく、此の点についての被告の主張は理由がない。

(四)  被告は工事執行規則は建設業法施行前に制定せられたもので、同法施行後は無効であると抗争するけれども、前述の通り工事執行規則は無効のものではないからこの点についての被告の主張も理由がない。

ついで当事者間に成立に争のない甲第九号証、甲第十号証、甲第十一号証の一、二、甲第十二号証、甲第二十一号証、甲第二十二号証、甲第二十三号証の一乃至四、甲第二十四号証の一乃至四、甲第二十五号証の一乃至三、乙第一号証の一、二、証人滝川二一の証言によつて真正に成立したと認められる甲第二十六号証乃至甲第二十九号証の各一、二、甲第三十号証、甲第三十一号証乃至甲第三十三号証の各一、二、甲第三十四号証の一乃至二、甲第三十五号証乃至甲第三十八号証、甲第三十九号証乃至甲第四十一号証の各一、二、甲第四十二号証乃至甲第四十四号証、甲第四十五号証乃至甲第四十八号証の各一、二、甲第四十九号証、甲第五十号証、甲第五十一号証の一、二、甲第五十二号証乃至甲第七十一号証、甲第七十二号証の一、二、甲第七十三号証、甲第七十四号証の一乃至四、甲第七十五号証乃至甲第七十七号証の各一、二、甲第七十八号証の一乃至四、甲第七十九号証、甲第八十号証、甲第八十一号証の一、二、甲第八十二号証の一、二、甲第八十三号証及び証人笠原英佐武、同吉田勇、同笠原正吾、同日馬木敦、同笠原治郎作、同佐藤二平、同大滝作太郎、同笠原利善蔵、同滝川二一並に鑑定人西田勇の鑑定の結果を綜合すると、原告と被告間に昭和二十五年八月十八日本件請負契約成立後原告において施工すべき南北両校舎の整地工事及び北校舎の道路工事中南校舎の整地工事を昭和二十五年八月二十二日佐藤二平が請負い、第一次工事として校舎敷地部分を竣功期限同年九月十五日までに完成し、第二次工事の校庭の整地工事も九分通り施工し、同年九月十一日には地鎮祭を行い、同年同月十六日地繩張が行われた。北校舎の整地及び道路工事は同年八月二十二日笠原重一が請負い、第一次工事の校舎敷地部分は竣功期限同年九月十日までに完成し、翌十一日に地鎮祭が行われ、第二次工事の校舎敷地以外の整地工事は同年十一月中に完成し、道路工事は同年十二月中に完成し、原告直営の南北両校舎の敷地の杭打工事もそれぞれ佐藤二平、笠原重一が請負い、南校舎は同年十月十七日に北校舎は同年十月二十日に各完成し、その間被告は基礎工事、資材の蒐集搬入、建設工事を進め同年十一月二十三日上棟式を行つたが遂に竣功期限昭和二十六年三月三十一日を経過するも両校舎の工事は未完成で、北校舎は大工工事は大体終り、塗装工事、電気工事、飾付工事を残す程度で生徒を収容するに差支なかつたので、同年五月二日原告は同年一月六日の合意に基き隣町能生町に委託してある生徒を収容する旨被告に通告したが、被告との交渉は進捗せず被告は請負金の増額を要求し、同年五月五日被告は工事費増額嘆願書を以て総工事費金千三百万円に増額の要求をする旨配達証明郵便で原告に送付したが、原告は同年同月八日書留内容証明郵便で請負代金増額請求を拒絶し、同時に生徒を収容する旨通告し、同年同月十四日生徒を収容すべく校舎の掃除、机の搬入を始めたところ被告はこれを阻止し、翌同年同月十五日校舎を閉鎖し同年同月二十日西頸城地方事務所長の仲裁を求めたがこれも纏らず、同年同月二十一日原告は被告に対し本件請負契約に基き工事執行規則第十九条第一号「工事施工緩慢であつて期限内に竣功の見込がないときは請負契約を解除して請負保証金及び工事既成部分を村の所得とする」旨の規定に基き契約を解除する旨書留内容証明郵便で通告し、この内容証明郵便は同日被告に送達せられ、その頃原告は仮処分決定を求め、被告より右仮処分決定により未完成の両校舎の引渡を受けた。当時南校舎の工事出来高は五二・七五パーセント、北校舎の工事出来高は九五・二五パーセント総合工事出来高は七一・三四パーセントで、其の後原告は昭和二十六年六月十六日より同年十二月二十六日までに、右両校舎の残工事を施工し完成するに同校舎内に残置せられた別紙第二目録記載の未取付部分品を残工事の建築資材の一部として使用して金二百六十万四百八十五円を支出した。而してその間原告は被告に対し請負代金の中間金として第一回昭和二十五年九月四日金百五十万円、第二回同年十月十二日金百万円、第三回同年十一月十四日金五十万円、第四回同年十一月二十七日金百万円、第五回同年十二月二十六日金百万円、第六回昭和二十六年二月二十六日金六十万円、第七回同年三月二十七日金百万円、第八回同年四月二十七日金四十万円合計金七百万円を支払つていることが認められ、右認定に反する証人猪又清正、同小川寅作の各証言及び被告本人の供述の各一部は前示証人笠原英佐武同笠原治郎作同佐藤二平の各証言に徴して遽に措信し難く他に右認定を覆すに足る証拠もない。

右認定の事実によると被告は本件請負契約の履行期昭和二十六年三月三十一日を過ぐるも履行をなさず、履行遅滞の状態にあつたと認められるが、被告は本件請負工事竣功の遅延は原告が昭和二十五年八月末日迄に完成すべき整地工事、同年九月十五日迄に完成すべき道路工事の遅延に原因し被告の責に帰すべきものにあらずと抗争するので按ずるに、検証の結果及び証人笠原英佐武同斎藤保太郎同笠原治郎作同佐藤二平同大滝作太郎同笠原利善蔵の各証言を綜合すると、原告の施工すべき整地及び道路工事は昭和二十五年八月十八日本件請負契約当時水田であつた南北両校舎の敷地及び校庭の部分を埋め立て土盛する工事で、北校校舎の道路工事は県道より六十米位約一間巾の農道を二間巾に拡張する工事であつて、被告は契約当日現場を視察しその状況は知悉しており、請負契約当時に於ては原告の施工すべき整地及び道路工事は出来るだけ早急に完工するとの話合の程度で確定的な期限は定めがなかつたことが認められ、これに反する被告本人訊問の結果は右整地、道路工事の規模、性質上被告主張の如き短時日に完工するものと認められないことに徴して遽に措信し難く他に右認定を動かすに足る証拠もない。而して前示認定の通り、原告は昭和二十五年八月十八日請負契約成立後原告において施工すべき南北両校舎の第一次工事校舎敷地部分は同年九月十五日迄に完成し、同年同月十一日にはそれぞれ地鎮祭が行われており、北校舎の道路工事は遅れて同年十二月完成したのであるが、南北両校舎の整地工事に関しては著しく遅延したものとは認められないし、証人笠原英佐武同笠原治郎作同佐藤二平同大滝作太郎同笠原利善蔵の各証言及び検証の結果を綜合すると、南北両校舎の整地工事は水田を埋立てたもので多小雨降の時は泥寧化したが建設工事には差支なく、北校舎の道路工事は原告の予定通り工事が進行しないので、昭和二十五年十月には県道より校舎敷地まで約百間位トロ線を敷設しトロツコを無償にて被告に提供し資材の運搬に支障なからしめ、而して建設工事の遅延は原告の整地、道路工事の遅延によるものでなく、被告が南校舎の大工仕事を下請させた大滝作太郎、北校舎の大工仕事を下請させた笠原利善蔵にそれぞれ建設用資材の供給の不足、遅延に起因するものであることが認められ、右認定に反する証人猪又清正同小川寅作及び本人訊問の結果は証人大滝作太郎、同笠原利善蔵の各証言に照らし遽に措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠もない。

果してそうだとすると本件請負工事の遅延は被告の責に帰すべき履行遅滞と認めざるを得ない。従て此の点においても被告の主張は認めることを得ない。

而して工事執行規則第十九条第一号「施行緩慢であつて期限内に竣功の見込がないと認めたときは請負契約を解除して請負保証金及び工事の既成部分を村の所得とする」旨の規定は請負工事が竣功期限前においてその竣功期限に完工の見込がないと認められる場合のみならず、前示認定の通り本件請負契約におけるが如くに竣功期限経過後においても尚竣功せずに履行遅滞の状態にある場合においても、勿論工事執行規則第十九条第一号により請負契約を解除し得ると解すべきであつて、この場合は民法上の履行遅滞による解除の効果と工事執行規則第十九条第一号による契約解除の効果が競合し、原告は既成物件として別紙第一目録記載の南北両校舎の建物及び右未完成の南北両校舎に取付けるために同両校舎に残置せられた別紙第二目録記載の未取付部分品の所有権を取得するとともに、被告の履行遅滞による損害あるときは被告に対しこれが賠償を求め得べきところ、別紙第二目録記載の未取付部分品は前示認定の通り、原告が本件両校舎の残工事の施工に建築資材の一部として既に使用し本件建物の一部に化体し独立の存在を失ているので、原告は所有権に基き被告に対し別紙第一目録記載の建物の請求をなし得るも、別紙第二目録記載の未取付部分品の引渡の請求は既になし得ざるものであるから、原告の被告に対する別紙第二目録記載の未取付部分品の引渡請求の点は失当である、而して原告は前示認定の通り被告に対し本件請負工事の請負代金として昭和二十五年九月四日より同二十六年四月二十七日まで八回に亘り、合計金七百万円を支払い。同年五月二十三日仮処分決定により被告より本件南北両校舎の引渡を受けた当時は、南校舎の工事出来高は五二・七五パーセント、北校舎の工事出来高は九五・二五パーセント、南北両校舎の総合出来高は七一・三四パーセントであつて、原告がこの両校舎の残工事を完工するに建築費用として金二百六十万四百八十五円を支出したので、原告は本件南北両校舎を建設する為に総計金九百六十万四百八十五円を支出し、被告が本件請負契約の債務不履行がなかつたならば請負代金八百五十万円にて本件南北両校舎を建設し得たにもかかわらず、結局その差額金百十万四百八十五円を超過支出を為さざるを得なかつたが、これは被告の債務不履行に基く原告の損害である。従て被告は原告に対し別紙第一目録記載の建物の引渡をなす義務あるとともに、金百十万四百八十五円及びこれに対する原告の第二準備書面送達の日の翌日であること記録上明白なる昭和二十八年七月六日より完済に至る迄年五分の割合による損害金を支払う義務あるも、別紙第二目録記載の未取付部分品の引渡をなす義務なきものと言わざるを得ない。

然らば被告が本件南北両校舎請負工事遅延の責は原告の施工すべき整地工事及び道路工事の遅延を前提としての反訴請求は理由なく、又本件請負契約の内請負代金の部分は無効であるとして、被告が原告の為に本件南北両校舎を建設し被告は原告に対し適正な報酬額を請求し得べき無名契約に転換したとの主張を前提としての反訴請求も理由がない。

よつて、原告の本訴請求中被告に対し別紙第一目録記載の建物の引渡並に金百十万四百八十五円及びこれに対する昭和二十八年七月六日より年五分の割合による損害金の請求は何れも正当であるからこれを認容し、その余の請求は失当であるから棄却すべく、而して被告の反訴請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、仮執行の宣言については同法第百九十六条を各適用して主文の通り判決する。

(裁判官 増村文雄 河端清 三宅東一)

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